アムロ・レイの生産性

コロナ感染者がまた増加傾向にあるようだが、最近はあまり気にすることもなく飲み歩いている。昨日も会社帰りに同僚と飲んできた。オサダは元々愚痴っぽい男であるがこの日もまた不満の炎をくすぶらせていた。

「あいつは太顧客引き継いだだけで、別に自分で開拓したわけじゃないですからね・・。」
これだけ聞けば、次にどんな愚痴が展開されるか、サラリーマン諸賢であれば聞くまでもなく想像できるであろう。「あいつと俺の担当が逆になれば、俺の方がいい数字出せますよ。」
ふむ、予想通りの文言が彼の口から発せられた。

私は思わず、、、

「俺だってガンダム乗ってれば、もっと撃墜してるよぉ・・・、ってか?」

とつぶやいてしまった。

オサダは酔いで少し赤くなった顔を私に向け、怪訝な表情を浮かべた。
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アムロ・レイという男がいる。
アニメ『機動戦士ガンダム』の初代主人公である。

彼は天才パイロットである。

アムロ・レイと凡人の生産性の差を考えてみたいと思う。

たとえば、ある戦場で、敵機ザクの撃墜数が下記のようになっていたとする。

【戦場A】
ガンダムに乗ったアムロ・レイ 300機
汎用機に乗った凡人        3機

この場合、アムロレイは凡人の何倍の生産性があるだろうか?

300÷3=100なので、アムロの生産性は凡人の100倍。

この理屈は正しいだろうか?

この問いに答える前にもう1ケース考えてみたい。

次のような数字が上がってきた場合、同じ質問に対しどう答えるだろうか?

【戦場B】
汎用機に乗ったアムロレイ     30機
ガンダムに乗った凡人       30機

アムロ・レイは凡人の何倍の生産性があるか?

30÷30=1となる。天才パイロットアムロと凡人の生産性は同じ。

さすがにこう考える人はいないだろう。

乗っている機体が違うのだから、その部分を考慮しなくてはパイロット間の生産性(=腕前)の違いは正確に測れない。同じ機体に乗った場合の撃墜数を比べなくてなならぬ。

お互いガンダムに乗った場合の撃墜数は次の通りである。

ガンダムに乗ったアムロ 300機
ガンダムに乗った凡人   30機

だから、300÷30=10 というのが正解だろう。

アムロは凡人の10倍の生産性を有する。

汎用機で比べた場合も同じ数字が出る。

汎用機に乗ったアムロレイ     30機
汎用機に乗った凡人        3機

30÷3=10となる。

そんなわけで天才パイロットアムロ・レイの生産性は凡人パイロットの10倍というのが結論なのだが、世の中には一番最初の「300÷3=100倍」説を吹聴してくる輩がけっこういる。

そして、それを論破するのはなかなか難しい。

というのも、今回はたまたま【戦場B】で、アムロが汎用機に乗り、凡人はガンダムに乗る機会が生じ、その時の数字を用いることによって、正確な生産性の比較ができた。

だが、現実的にはこのような機会はめったに発生することはないだろう。
実際の社会ではアムロはガンダムに乗り続け、凡人は汎用機に乗り続けることになる。

これは必然のことなのである。

アムロがガンダムに乗り、凡人が汎用機に乗った場合 =【戦場A】

 300+3=303機

これだけのザクを撃墜できる。

しかし・・・、

アムロが汎用機に乗り、凡人がガンダムに乗った場合 =【戦場B】

30+30=60機

これだけしかザクを撃墜できない。おまけに凡人はガンダムを大破させる可能性も高い。

そうなれば軍上層部は【戦場B】のような采配は決してしないだろう。

腕前のいい者は高性能マシーンに、凡人は汎用機に、という決断が合理的となる。

そんなわけで現実的には【戦場A】のパターンしか出現せず、そこでの戦績を元に評価を下される。エースたちの実績は輝かしいものになりがちで、一般兵の実績は平凡なものとなりがちだ。実力に対して、不当な低評価に甘んじている一般兵が多々存在することとなる。

これはサラリーマンの世界でもよく見られる光景だ。エース社員は大口顧客の担当となり、平均社員は中堅から小口の顧客を任される。会社への貢献利益では大口顧客を担当しているものが圧倒的有利で、期末の査定ポイントで実力以上に差が開いてしまう・・・。

「俺だってガンダム乗ってれば、もっと撃墜してるよぉ・・・。」

これは、酒場で数多のサラリーマンから聞こえてくる呪詛なのである。オサダの愚痴を聞いて、私は思わず巷に溢れる呪いのフレーズを口ずさんでしまったわけだ。

この呪いを解く魔法はない。やり過ごすだけだ。
うんちをしたら、特に何をするわけでもなく、ただ流すだけであろう。
このフレーズが出た場合も、「そうだよな。やってらんねえよな。」と言って受け流すことしかできない。酒場は感情のトイレット、と私が常々言う所以である。

ちなみに、今回のケースでは凡人はガンダムを運転できる設定だったが、ガンダムの操作が汎用機より難しく、凡人では操縦できないという条件だったらどうなるだろうか?

その場合は、 「300÷3=100倍」説 も説得力を持ち始める。ガンダムの操縦を教えてもらう機会が無かったり、実地で経験を積む機会が無かったことにより、きわめて大きな差がついてしまう。

少しでもいい機体に乗れるように、立ち回りもうまくやっていく必要があるだろう。
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黙って聞いていたオサダが口を開いた。

「訓垂れさんはずっとジムに乗りっぱでいいんですか?」

ジムというのは汎用機の名称だ。30代半ばなら初代ガンダムの知識もあるのだなと少し安心した。
そして私は言った。

「まあねえ、私は事務職だからねぇ・・・。」

オサダとはしばらく飲みに行ってもらえないかもしれない。

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